映画の照明について知っているほんの少々

 樋口可南子主演で『卍』を撮るときに照明技師として参加いただいたのは川崎保之丞という大先輩だった。川崎さんは撮影のあいまにとても大事なことを教えてくださった。 映画の撮影ではまずキーライトを決めて少しづつ光を足していく。言うなれば加算していく。逆にテレビ(主にビデオ撮影)ではスタジオの天井につってあるライトすべてをまず全部点けて徐々に減らしていく。例えれば減算。
 なるほどと理解した。わたしが東映東京撮影所で助監督をしていたころ川崎さんはたぶん一番古い照明技師として活躍なさっていた。そのときは照明部の技師と演出部の助手(助監督)という関係だったので雑談する機会もなかった。
 監督と照明技師という新しい関係の中でこのようなありがたいお話が聞けたのだ。照明の加算、減算について加えるなら最近鈴木敏夫氏(『崖の上のポニョ』など宮崎駿さんのプロデュースをたくさんなさっている)が毎日新聞の「この人・この3冊」という欄で加藤周一のことをお書きになっている。
 あるとき、加藤周一さんから直接教えられたことがある。
 江戸屋敷には設計図が無い。西洋の人が江戸屋敷を見学すると、その建築構造の複雑さに、これをどうやって設計したのか、大概の人が驚嘆するそうだ。回答は、日本の建築は部分から始める。まず第一に、床柱をどうするか。つぎに床柱に見合う床板を探す。そして、天井板。その部屋が完成してはじめて、隣の部屋のことを考える。その後、〝建て増し〟を繰り返し全体が出来上がる。これとは真逆に、西洋ではまず全体を考える。教会がいい例だ。ほぼ例外なく、天空から見ると十字架になっている。で、真正面から見ると左右対称。その後、部分に及び祭壇や懺悔室の場所や装飾などを考える。
……
 この記事を読んだときわたしは上記川崎さんの話を思い出して似ているなと思った。
 中須岳士という売れっ子の照明技師がいる。余計なことを言うと彼は日本映画学校でわたしが照明の方に向いているとアドバイスしてプロとして成功した数少ない教え子だ。彼は映画の撮影に入る前、準備段階で照明の設計をMacでやるのだと「ふくおか映画塾」で教えてくれた。(これもいらないことだが猫に小判だった。ちなみに中須君は若いから上記建築の話でいう西洋風です)
 話を川崎照明技師に戻すと川崎さんは「雨の撮影のときは逆から(カメラの向こう雨つぶの後ろからレンズに光が当らないように注意して)照らす。雪の撮影はその反対。カメラを置いている側から順光であてる」と教えてくださった。
 映画の照明はとても大事だ。小林正樹監督に『切腹』という名作がある。橋本忍脚本でわたしにとっては教科書だ。この撮影は宮島義勇。主演の仲代達矢が白州に坐って三国連太郎と対峙する有名なシーン。これはセット撮影。宮島キャメラマンは時間の経過とともに陽が傾いてゆく凝りに凝ったライティングをしている。
 乞食は3日やるとやめられないと言うが映画は一本でも監督するとやみつきになる。故・田山力哉氏は生前わたしにしみじみと語ったことがある。「横山も結局『純』だけだったなぁ。ルルーシュの『男と女』と同じで」そうならないようにこころがけて来たがあと10日もたてばわたしは62歳。馬齢を重ねるとはこのことか。
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by hiroto_yokoyama | 2010-03-05 06:16 | 映画
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