松本圭二『詩人調査』(「新潮」3月号)を読む

 「小説家52人の」「日記リレー」を読み終わり雑誌「新潮」に用はない。図書館に返却しようと最後の古井由吉氏の日記のページをめくってみたら、
 タクシードライバーをしておったんです。
という文章が目に入った。みなさんもご承知かと思いますがわたしもタクシー運転手を5年しておりました。たとえ小説のウソでも気になります。次は
このご時世ですから、あんまり儲かってはおりませんでしたが、人の道を外さない程度には真面目にやってきたつもりなんです。それなりのプロ意識もありました。かれこれ一五年、無事故無違反ですよ。優秀ドライバーの表彰は何度もいただいております。それがあなた、一日にして失格ドライバーだ。
 と続いているではありませんか。もう止まりません。女であれ男であれ自分より年下の者が書くものは金原某に限らず忌避する方針なのですがこの 『詩人調査』はべつ。最後まで読みました。とても興味ぶかく楽しく笑いながら昨日読み終わり気分がとてもいいのです。
 読んでいる途中これを書いた人はどんな人だろうと、まだ見ていなかった目次を覗きました。惹句は
詩人VS金髪エイリアン!? 萩原朔太郎賞作家の衝撃作。
 へたな売り文句! 映画屋さんだったらもう少しうまい。この 「金髪エイリアン」というのはわたしの大好きな妻も認めている、あのアメリカの第67代国務長官ヒラリー・クリントンなのだ。小説のなかでは国務長官ではなく
この地球と呼ばれる惑星に、本当に「詩人」なる生物が存在するのかどうか。 それを調査選別するというのが宇宙公務員ヒラリー・クリントン女史の仕事なのだ。
 国務長官をエイリアンにしたてたりなんかして不敬罪に問われないのだろうかと余計な心配をする。
「トラさん」こと(アル中)タクシードライバー園部航が、……
 語る一人称小説。ちなみに「トラさん」とはあの「フーテンの寅」ではなくましてうちの飼い猫「寅彦」などではなく映画「タクシー・ドライバー」の主人公トラヴィスの「トラ」と聞くに及んでは笑ってしまいます。
 この小説を書いた人はいくつなんだろうか? 雑誌のうしろに「今月の執筆者(五十音順、生没年は西暦)」というのがあって松本圭二(まつもと・けいじ)詩人。65年生。「ロング・リリイフ」「アストロノート」とありました。
 この記事を書く前にパソコンで検索してみたら「松本圭二」さんという方はちゃんと実在しておられるようでなんと福岡市在住というのも本当のようです。
 『詩人調査』に2ヶ所付箋紙を貼っていますが、ついでにそこのところも引用します。
だいたい日本のタクシードライバーはですよ、堅苦しい制服を着て、変な帽子を被らされて、はっきり言ってカッコ悪いんですね。おっさんにしか似合わないような格好ですもんね。ニューヨークとはずいぶん違いますから。どこがトラヴィスかよって話ですよ。
 ついでに言うとわたしの勤務したバード・タクシー(仮名)ではダサイ制服は着せられたけれどあの片岡千恵蔵の七つの顔の運転手の帽子は被らなくてよかったので運転手をやってみる決心がついたのでした。もうひとつ引用。
でもね、まだ若かったんです。それで失敗しました。「過去を棄てた男」になりきれなかったんですね。過去を問わない、語らないというのも、タクシードライバーの鉄則というか、美学なんです。「過去を棄てた男」なんてカッコいいのかカッコ悪いのかわかりませんけどね。わたしはそれができなかった。
 わたしもついに馬鹿にはなりきれなかった。
 ということで文芸誌で小説を読んだのは久しぶり。何年ぶりかも思い出せません。この小説を書いた松本圭二さんは「詩人」と書いてあるのでこの 『詩人調査』が初めての小説なのかも知れませんが次の作品を期待します。氏の詩も機会があったら読んでみたい。公式ホームページをお持ちなようなので場合によってはメールでも出してみようかなという気になるくらいおもしろい、おかしな小説でした。
[PR]
by hiroto_yokoyama | 2010-03-12 05:56 | ブログ
<< 村上元三『ひとり狼』(「時代小... 松本圭二『詩人調査』(「新潮」... >>