高齢者の口の臭い

 タクシー運転手をはじめて1ヶ月近くなる。その前は体の不自由な人の在宅治療で口の中を懐中電灯で照らすアルバイトをほんの数日やってすぐやめた。それでも100名近い高齢者の口の中を覗いて、さまざまな人生を見たような気になった。
 誰も言わないことだが口の中の手入れが行きとどかない人がこんなにも多いのかと驚きが隠せない。
 タクシーにはいろいろな人が乗ってくる。高齢化社会のせいと可処分所得が多いこともあり年配のご夫婦がたくさんお乗りになる。こんなことを書けばまたまた嫌われるのは分かっているがもしかしたら「なるほど」と感じてくださる方がなかにはいらっしゃるかも知れないと期待して言えば、ある年齢以上の方をお乗せすると後部座席から異臭が必ずと言っていいほどただよってくる。理由は簡単。歳をとれば誰もが歯茎がさがってくる。歯と歯のすきまがひろがる。そこに食べた滓がのこる。義歯や入れ歯は汚れやすい。臭いは自分では気がつきにくい。異性を意識しなくなれば、自分の口の臭いなどどうだってよくなる。さまざまな原因から人は自分の口臭に配慮しなくなる。裕福でも貧乏でもこれは皆同じようなのだ。
 人間は毎日いろいろな人と会話を交わす。そのとき「あなた、口が臭いですね」とはとても言いにくい。家族に対してでもはばかるものがある。
 わたしはなぜこんな馬鹿げたことを書くのだろうか?
 生活習慣病というものがある。成人病のことをいつのころからか生活習慣病とマスコミで言うようになったが、わたしはちょっとうまい言い方だと思うのだが、人間が考えたり感じたりするのは生活習慣と切り離せないはずなのに、病気だけが生活習慣と結びついているかのような表現に物足りなさも感じている。
 ニンニクを食べたあと話す相手に不愉快な思いをさせないだろうか、までは誰しも思うだろうが、生活習慣の延長で口臭がしないかと自覚する人は少ない。日々判で押したような生活がおくれるのは人間としてたいへん幸せなことだが、つい知らず知らず判で押したようにしか感じられない、ステレオタイプでしかものが考えられない、そうなってしまっては人間としてもう終わりなのではないか。
 高齢者の口の臭いはその象徴のように思えわたしは何とかならないかと考えてしまう。わたしひとり歳をとったら口の臭いにも鈍感になるので気をつけておこう、では済ませない重要な問題があるような気がするのだが、わたしは頭がおかしいのだろうか。自分の口の臭いが気にならないなら、パートナーの口の臭いにも感づかない。わたしはそんな老後をおくるくらいなら『ロビンソン・クルーソー』のように寂しくてつらいだろうが絶海の孤島でひとり人生を終わることを望む。
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by hiroto_yokoyama | 2004-10-18 10:24 | ブログ
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