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撮影のときの雨降らし

 日本国民のみなさんは台風はもういい! という気分でいらっしゃることだろう。わたしはタクシーの売り上げが上がるので、内心歓迎する気持ちがきのうまでは強かったのだが、やはり雨降りの夜の運転ほど疲れるものはないので、いまはもううんざりしている。
 少年のころたまに来る台風が嬉しかったことを思い出す。通り過ぎたあとほこりと土と水のいりまじった匂いを水嵩のましたどぶ川で嗅ぐのが好きだった。
 みなさんはご存じだろうか?
 映画の中の雨はどうやって降らすのか?
 自然に降っている雨はなかなかうまく写らない。雨の水の玉が小さすぎるのだ。最近はホースに穴を開けたものでカメラの手前で少々。画面の奥の方で少々。スタッフがちょっと苦労すれば人工の撮影用の雨ができる。
 雨と言えば黒澤明監督の『七人の侍』があまりにも有名。黒澤映画では雨が降るときはいつも土砂降り。風が吹くときはいつも暴風。いまふうのショボイ雨降らしでは黒澤映画の雨でなくても、わたしたちが見るような雨をスクリーンに再現するのは無理なのだ。
 東映映画に『三億円事件・時効成立』(監督:石井輝男、主演:岡田裕介、小川真由美)というのがあった。わたしは助監督のサードだった。府中刑務所の前で雨の日ねらいで撮影した。当時、撮影所には撮影中の発火にそなえてほんもの(と言うのはおかしいが、消防署にあるものと同じ)の消防車が用意されていた。その消防車を刑務所の前に運んで実際の雨に作り物の雨を加えるという作業をした。
 出勤時間なので現場は大混乱。必死で車止めをするのだが、道路工事や水道工事などと違い撮影のために遅刻することを納得する人など誰もいない。クラクションは鳴りっぱなし車から降りてスタッフに殴りかかりそうな人もいる。そういう人たちをなだめて時間稼ぎをするのも助監督(だけではなく「製作進行」も)の仕事なのだが、要領のいいわたしはその日の応援できた先輩の助監督に車止めはまかせて(うまく逃げて)駐車場の片隅で前の日に買った防水着の上下にゆっくりと着替えていたものである。
 雨をそのまま撮っても映画では雨にならない。台風も同じ。台風に見えるように撮らないと仕事にならない。黒澤監督が増村保造監督(当時は大映の助監督だったらしいが)たちのいるスタッフルームにふらりとやってきて「君たちは夏の暑さをどう撮るかね? 」と質問なさったことがあると増村氏のお書きになったものにあった。黒澤作品『野良犬』の冒頭、犬がはぁはぁと息をしているカットがあるが、あれなどが夏の暑さの秀逸な表現なのではないだろうか。
 さいごに『七人の侍』がアニメか何かでリメイクされるそうだが、『七人の侍』のすごいところは篠つく雨の中の戦闘シーンなのだからあのシズル感はやっぱり実写の「雨」でないと表せないと思う。
 アニメ版の関係者の方へ。
 新しい『七人の侍』の営業妨害をするつもりでこんなことを言うのではありませんので念のため。
by hiroto_yokoyama | 2004-10-21 09:45 | ブログ
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