いまを去ること約31年前(1979年5月)。ところはカンヌ映画祭のメイン会場・フェスティバルホール。わたしは東宝東和の創設者・川喜多長政、かしこご夫妻に連れられて映画際のオープニングの儀式に出席した。生まれて初めてのタキシード姿。車から降りて報道陣の群れをかき分けながらホールの階段に向かった。すると数メートル先になんとあこがれのカトリーヌ・ドヌーブがいた。川喜多ご夫妻の歩調にあわせないとならないわたしは内心いらだちを覚えた。もっと近づきたい。わたしのカトリーヌはわたしのためにではなく(あたりまえ)ゆっくりと階段をあがりはじめた。手を伸ばせばとどく距離まで接近。ラメの入ったカクテルドレス(だったと思う)。目の前で右に左に腰がゆれる。胴回りは以外に太い。もう彼女は中年太りなのだ(当時35歳)。下着の線がすけて見えるような気がする、と思いきやホールの入り口にたどり着いていた。
たったこれだけのことなのにわたしの瞼に焼き付いて離れない。「瞼の母」ならぬ「瞼のカトリーヌの豊かな腰」ああ生まれてよかった。苦労してデビュー作を撮ってよかった。カトリーヌ・ドヌーブ来日の報をきいて感激がきのうのことのようにこみ上げてくる。 式がはじまり階下のわたしは2階最前列にいるはずのカトリーヌをそれとなくさがしたが視野に飛び込んできたのはイヴ・モンタンの大きな鼻の穴ばかりだった。
by hiroto_yokoyama
| 2010-03-01 10:13
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