タイトルは松本清張『喪失の儀礼』(新潮文庫)246ページからの孫引きである。小説のなかに時々作者が顔を出すことがある。清張も登場人物のひとり警視庁の刑事・須田に生のままの自分を投影させているようだ。そこの件(くだり)を引用する。
……人間の特殊意識は隠そうとする一方、何かでそれを語りたいという気持に駆られている。須田(上記の刑事)は高校のとき、英文学好きの英語の先生からエドガー・アラン・ポウの「テル・テル・ハート」(告げ口心臓)という短篇の話を聞き、人間は意志に逆行して秘密をしゃべりたい衝動に駆られるものだと講釈された。その解説として、日本にも、「知られちゃならない二人の仲を、だれかにそっと教えたい」という恋愛の機微をついた俗謡があるとも聞いた。…… 清張さんはNHKのインタビューで自分は女を知らないので云々と発言しているがわたしの憶測では素人女は確かにあまり知らないだろうが売春防止法施行以前には相当商売女と遊んでいらっしゃったとお見受けする。読んでいると人に聞いた話みたいな顔で書いていても「おぬしやるのぉ! 」と驚くほど女性を研究しているのが分かる。 清張以前には推理小説を読む女性読者はほとんどいなかったらしい。清張が『愛と空白の共謀』という小説を「女性自身」に書き出したあたりからだんだん女性も推理小説に親しみ始めたと何かに書いてあった。清張さんが多くの女性読者を獲得できたのは「おぬしやるのぉ! 」と感じさせるくらい女の気持を分かっているからなのだ。別に相手が素人でなくても女性は女性。松本清張の勉強相手はじつは商売女であったのだ(こんなこと書くとご遺族の方からきっとお叱りを受けるだろうな)。 話を戻すと仕事場の写真あるいは執筆中の清張の写真はファンなら誰でも見たことがあるはずだ。そのすみに「POE」と白ヌキの表紙が写っている。いわずと知れた「エドガー・アラン・ポウ全集」である。わたしは「テル・テル・ハート」を読んでみようと図書館に全集3を予約したところだ。
by hiroto_yokoyama
| 2010-04-13 07:40
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