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吉田喜重監督『秋津温泉』を見た

 この映画が作られたのは昭和37年(1962年)、わたしが中学2年のときだった。封切りで見たのではない。当時見ていてもはるかに理解の外であったろう。『キネマ旬報ベスト・テン80回全史』によるとこの年公開されてすぐに見た映画は何本もあるが好きな映画は『切腹』『椿三十郎』『おとし穴』くらいだろうか。最後の『おとし穴』はもしかしたら封切りより遅れて見たかも知れない。
 『秋津温泉』は映画監督を志して上京したのち勉強のためにどこかの名画座で見た記憶があるのだがディテールはほとんど覚えていない。きょうも勉強のつもりで再見。岡田茉莉子と長門裕之のまさに「しのぶ恋」というのだろうか、すばらしい。撮影は成島東一郎。色彩と構図がなるほどなるほどとうなづかされる。音楽は林光(わたしは林さんに拙作『卍』の音楽をお願いした)。武満徹はその著『音、沈黙と測りあえるほどに』のなかで台詞が「あくまで観念」なので音楽は「それを官能的な次元に置換えて」「直接的に働きかける」役割を担っていると言っている。まさにこの映画の林光の音楽はその見本のようである。
 ヒロインが最後に死ぬ映画をここのところ続けて3本見た。成瀬巳喜男監督『浮雲』昭和30年(1955年)、川島雄三監督『花影』昭和36年(1961年)そしてこの『秋津温泉』。どの映画もひどく切ない。それでいて心が洗われる気がする。自分では男女のことを知り尽くしていると自惚れていたが中途半端に、頭のてっぺんで分かったような気になっていたに過ぎない。ようやく還暦をすぎて分かるようになって来たのだからずいぶん奥手なのだと驚いている。時既に遅し。
by hiroto_yokoyama | 2010-05-03 15:53 | 映画
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