「読者に
……最初からきみに言っておくが、わたしはこのブログ(「そのなか」を横山が勝手に「このブログ」に換えた)に、内々(うちうち、ルビ)で私的な以外のどのような目的も掲げてはいない。また、これをきみの役にたつようにすることも、わたしの自慢になるようにすることも、まったく考慮しなかった。わたしの力では、とてもそのようなもくろみを抱(いだ、ルビ)くことはできないのだ。わたしはこのブログをわたしの親族や友人たちが個人的に利用してくれるようにと思って書いた。それは(いずれ近いうちに彼らの当面しなければならないことだが)、彼らがやがてこのわたしという人間を失ってしまうとき、そのなかに、わたしの生き方や考え方の特徴のいくつかをまた見つけ出せるように、そして、そうすることによって、わたしについて彼らが持っている知識をいっそう生き生きとしたものに養い育ててくれるように、と願ってのことだ。 もし世間からもてはやされることを狙(ねら、ルビ)うのだったならば、わたしは自分をもっと派手に飾りたてただろうし、気どった歩き方で歩くところを見せるようにもするのだろうが。わたしはただそこに、単純な、自然本来の普通のあり方をした、念を入れたところや細工をこらしたところのないわたしを見てもらいたいと望んでいる。つまり、わたしの描いているのはこのわたしなのだから。世間一般への配慮に照らして許されるかぎり、わたしのかずかずの欠点が、わたしの生来の姿かたちが、そこに生生(なまなま、ルビ)しく読みとられることだろう。もしわたしが、自然によってはじめてきめられた掟(おきて、ルビ)のもとで、今もまだ快適で自由な生活を送っているといわれるあのいくつかの民族のあいだに生きているのだったならば、はっきり言うが、わたしはすすんで、自分をまったく欠けるところなく、まったく赤裸々に描き出していたかもしれない。 それだから、読者よ、わたし自身がわたしのブログ(「書物」を横山が勝手に「ブログ」に換えた)の内容なのだ。きみが、こんなにも取るに足りない、こんなにもむなしい主題のために時間を使うのは分別のない話ではないか。では、さようなら。 1580年3月1日 モンテーニュにて 」 (中央公論社「世界の名著19 モンテーニュ」57、58ページ、荒木昭太郎訳)
by hiroto_yokoyama
| 2005-10-05 21:51
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