成瀬巳喜男の映画では『浮雲』が最高傑作だと思っていた。それに違いはないのだが、見ていない作品がまだあった。未見の映画があと何本あるか知らないが僭越なことを言えば日本映画の巨匠のなかでこの人にわたしはいちばん近いのではないだろうか?
『女の中にいる他人』の脚本は井手俊郎。前にも書いたかも知れないが井手さんとは面識があった。『人形嫌い』というコンクール受賞作を映画にしようという話をしているとき2、3回東宝本社のちかくでお会いしてシナリオの書き方についてご教示いただいた。あのとき自分でシナリオを直して井手さんに読んでいただいたらどんなにか勉強になっていたであろうか。とっくに鬼籍に入られた方なので叶わない。
しかし井手さんの書かれた脚本が載っている雑誌「シナリオ」はたくさん持っている。『女の中にいる他人』が掲載された同誌1965年10月号の目次には、
「
ある日突然、夫が人妻を殺す。妻は殺人者の夫を前になにをすべきか」と書いてある。つけたせば人妻の夫は殺人者の親友。話がややこしくなる。わたしの好み。ちなみにこの映画の原作はエドワード・アタイヤ『細い線』(早川書房版)という、わたしの知らない小説らしい。
『女の中にいる他人』のシナリオをパソコンにいれてじっくり勉強してみよう。