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嵐寬寿郞主演『明治天皇と日露大戦争』を見た

 この映画は昭和32年の公開。わたしは9才。早生まれなので小学4年生だっただろうか。上映期間中なんども近所のロマン座のウィンドウでポスターとスティール写真を見た。 見ようか見まいか、見ても小学生には理解できないのではないか。ついに映画館には入らなかった。
 東撮で助監督として石井輝男監督についていたとき監督がなんども渡辺邦男監督のことを話してくださった。ナカヌキ(相対した2人の人物を撮るときAさんが何か言う。それに反応するBさんと代わり番こに画面がかわる。それを順番で撮っていくのはたいへんだ。効率よく片側だけをすべて撮ってしまうこと)のコンティニュイティを何十カット先まで頭の中で組み立てている最中にスタッフがうっかり話しかけどもしようものなら大変だった。数十カットのイメージがすべてパーになったと渡辺監督は咥えていた自分のパイプをへし折り地団駄踏んで悔しがるのだそうだ。
 そんな話をしながら石井監督は撮影現場で「横ちゃん!Aさんのタバコの長さはこれでいいの? Bさんのジュース(コップの中身のカサ)は繋がるんだね? 」とわたしに確認しながらナカヌキでバンバン撮っていく。
 石井輝男監督は渡辺邦男を師のごとく仰いでいらした。
 近所のビデオ屋に新しくこの映画のDVDが入荷したので渡辺邦男監督作品を是非見てみようと借りてきたのだ。
 主演のアラカン・明治天皇が素晴らしい。不覚にもわたしは何度も涙を流した。(年齢のせいでどうも涙腺が緩んでしまったようだ)ここで見るのを中断して嵐寬寿郞の肉声が聞きたくなり竹中労『鞍馬天狗のおじさんは 聞書アラカン一代』(ちくま文庫)を借りて読んだ。(昨晩読了)アラカンの歯に衣(きぬ)着せぬしゃべりがおもしろい。同書からすこし引用する。
「…この会社(新東宝)は当時オチメや、経営陣が交替して大蔵貢はんが乗りこんできたばかりです。製作本部長格で、渡辺邦男監督がいてはりました。…娯楽映画の巨匠や、その手腕で会社の建直しをはかった。(いろいろ作ったが)…も一つパッとしませんのや。
 そこで大蔵貢はんここ一番の大勝負、天皇はんをネタにすることを思いついた。並みの神経やない、それまで日本の映画では天皇はんの姿を出すのはタブーでおました
。…
 空前の大ヒット、封切りで八億円稼いだ。…
 だが、柳の下にドジョウ三匹も四匹もいてまへん、『明治天皇と日露大戦争』でやめとけばよろしかった。『天皇・皇后と日清戦争』、おのれの女をこれに出演させよりました。髙倉みゆき、これほんまの〝不敬罪〟。ワテはゆうたんです、昭憲皇太后とまるでイメエジちがう。ほたら怒りよった、「ワシの女やから、気品がないというのか? よし、見ておれ! 」とこうや。
 一度でこりずに、『明治大帝と乃木将軍』。キチガイ沙汰や、言わんこっちゃない、マスコミにバレてもうた。記者会見やて、勇気のあるお方です、満座の中でゆうてのけた。「女優を妾にしたオボエはありません、妾を女優にしたのであります」。わやくちゃですわ、増上慢のゆきつくところ、新東宝つぶれた。」
 ちなみにこの本の「聞書10 君知るや南大東島」という章の『神々の深き欲望』出演のエピソードのくだりを読んでいてわたしはゲラゲラと笑い出してしまった。妻が心配してついに亭主は気が狂ったのかと夜中に起きてわたしの顔をのぞき込んでいました。
by hiroto_yokoyama | 2007-08-06 10:47 | 映画
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