ネット映画講座はまずシナリオコースからはじめようと思っている。
みなさんは「レーゼシナリオ」という言葉をご存じだろうか? 「読むためだけのシナリオ」をレーゼシナリオという。「シナリオ講座」はたくさんある。ほとんどのシナリオ講座の講師は、現役のシナリオライターである。そのシナリオ講座で書かれたシナリオがコンクールで受賞することがあっても映画化されたという話は聞いたことがない。 シナリオコンクールの受賞作は、だいたいがレーゼシナリオだ。 シナリオ講座で講師をなさっているライターの先輩諸兄姉にはたいへん申し訳ないが、プロデューサーやたまに監督からの注文でシナリオをお書きになるライターの指導ではレーゼシナリオしか書けないのではないだろうか? (プロのシナリオライターがオリジナル脚本を書いても映画化されることがまれなのは、シナリオライターが悪いのではなく、日本映画界にハリウッド型のプロデューサーが皆無であることが問題なのだ) わたしは過去3本のコンクール受賞作を映画化した。はじめは『人形嫌い』(田中晶子)、つぎに『曖昧Me』(伊藤尚子)、そして最新作『お友達になりたい』(神山由美子)。どの作品も読んで「おもしろい」と感じた。と同時に、このままじゃ「撮れない。撮りようがない」と思った、すなわちレーゼシナリオなのである。 『人形嫌い』は俳優のプロダクションと女優が脱ぐ脱がないでもめたので監督を降りた。 途中までは田中晶子さんとシナリオの直しの打ち合わせを何回かした。『曖昧Me』は伊藤尚子さんに九州の撮影現場まで来てもらって、何度も何度も書き直した。『お友達になりたい』もはじめは神山由美子さんに直してもらったが、ご本人が忙しくなったので、了解をいただいてオリジナル脚本を「原作」にし、藤川美和が書き直した。 わたしはシナリオが書けない映画監督だ。 故深作欣二監督に教えていただいたことがある。「おれもシナリオが書けなかった。書くとどうしてもウソっぽいものしか書けない。監督を5本やったころ、自分でも書けるという自信がついた」 岡田茂東映相談役(前取締役会長)は「深作はホン(シナリオ)をいじる悪いクセがあった」が『仁義なき戦い』は1字1句直さないという約束で監督させて成功した」といろんな所でおっしゃっている。 わたしもやっと5本撮って(監督して)深作監督が言うようにシナリオが書ける自信がついた。 わたしのシナリオ修行のスタートは監督デビュー作の『純』だった。ご存じの方も多いと思うがもともと『純』のオリジナルシナリオは倉本聰氏がキネマ旬報に発表なさったもの。なんども映画化の話しがあり、クランクイン直前までいって中止になったりしたことはわたしも知っていた。あのままだと『純』はレーゼシナリオで終わっている。 蛮勇気というか、倉本氏のご了解をいただいて2、3度わたしがシナリオを書き直させていただいた。書く度に倉本氏から懇切丁寧なご指導をいただいた。 あの倉本聰氏にマン・ツー・マンでシナリオを教えていただいた監督はあとにもさきにもわたしひとりではないだろうか。 つぎは『卍』。馬場当(あたる)氏にシナリオをお願いした。今村昌平監督の『復讐するは我にあり』でキネマ旬報脚本賞をおとりになった直後のことだ。谷崎潤一郎の原作に綿貫というおもしろい登場人物があるのだが、馬場氏はシナリオでこの綿貫を削るといって聞かない。なんどもなんども綿貫復活を叫ぶわたしに、馬場氏はついに怒りご自分の書いたシナリオを塩漬けにすると言いだした。「ごちゃごちゃ言うなら、自分で書け! 」と打ち合わせの席を蹴立てて帰ってしまったこともある。 クランクイン目前でわたしは大いに困り、馬場氏のシナリオにいっさい手を入れないという条件で『卍』を撮った。これは修行になった。 桂千穂氏とはある作品でほぼ1年おつきあいいただいた。わたしが資金調達に失敗したため中止にせざるを得なくなり、桂氏にはたいへんご迷惑をおかけしたが、「あなたのようにはっきりしたイメージを脚本家に語る監督は珍しい」などとお褒めのことばをいただいたことをわたしはいまでも覚えている。 シナリオ修行の最後は石堂淑朗氏。『眠れる美女』のシナリオ作りにほぼ6年を費やした。この間おかげでワーグナーに接したり、ギリシャ悲劇、シェイクスピア、バタイュなどいろいろと読んだが、きっとわたしのシナリオ修行の仕上げになっているに違いない。 結論は、映画監督かプロデューサーがマン・ツー・マンでシナリオ修行につき合うのが「撮れるシナリオ」が書けるようになるいちばんの早道である。シナリオを書きたい、書いてみたいという人はたくさんいるが、その人たちにつき合う監督やプロデューサーがいそうにないので僭越ながら、不肖わたくしが知り合いのシナリオライターの方々を後ろ盾にシナリオライター志望のみなさんとプロとの窓口をつとめるネット映画講座・シナリオコースをはじめようかという次第です。
by hiroto_yokoyama
| 2004-07-23 10:22
| ネット映画講座
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