水上勉選集第4巻の月報に菊村到が「カキ鍋の味」という一文を載せている。何カ所から引用する。
私が初めて水上勉さんに会ったのは昭和三十三年の一月である。 前年の夏、私は芥川賞を貰い、十月にそれまで九年半勤めていた読売新聞を辞(や、ルビ)めた。つまり文筆生活に入って最初に迎えた正月ということになる。 菊村は川上宗薫とは「もう長いつきあい」らしく水上に菊村を紹介したのは川上なのだそうだ。初めて会ったときには「小説から離れたと言いながら」「暫くして水上さんは猛然と「霧と影」を書きはじめたのである」というのがあったのでこの『霧と影』をわたしは読んでみる気になった。だが、失望した。水上の初期の作品なだけにぎくしゃくしていて読みづらかった。水上勉と言えば、まねのできない名文家との思いがあっただけにがっかりしたのだ。 「カキ鍋の味」の文末を引用させて貰おう。 ……川上宗薫から、「河出書房の坂本一亀(あの坂本龍一氏の父君。横山の注釈)さんが読ませてほしいと言っているから、郵送してくれ」 という電話を貰い、すぐ坂本さんあてに送った……こうして名伯楽である坂本さんの手で「霧と影」が世に出たのである。 残念なことに、のちに水上さんと川上宗薫とはある事情で仲違(なかたが)いをしてしまった。一緒にカキ鍋を囲んだ思い出が深く刻みこまれているだけに、私にはひどく心残りだが、人生というのはもともとそういったものなのかもしれない。
by hiroto_yokoyama
| 2010-01-15 10:48
| ブログ
|
カテゴリ
以前の記事
2012年 11月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||